「DX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性は感じているが、どこから手を付ければいいのかわからない。」
あなたが今、このように考えているとしたら・・・
そのように考えている経営者はあなただけではありません。
独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)がまとめた「DX白書2023」によると、日本でDXに取組んでいる企業の割合は2021年度調査の55.8%から2022年度調査は69.3%に増加しています。
しかし、DXの取組状況を従業員規模別でみると、日本の従業員数「1,001人以上」の企業ではDXに取組んでいる割合は94.8%と高い割合を示しているのに対して、従業員規模が「100人以下」の割合の合計は約40%と、DXに取り組んでいない企業が60%近く、中小企業におけるDXの取組の遅れは顕著です。
同じ調査のなかで、中小企業のDXの推進を阻害しているものとして
「予算の確保」
「DX人材の不足」の他に
「具体的な効果や成果が見えない」
「何から始めてよいかわからない」
といった、DXを始めるにあたっての課題があげられています。
そこで、今回から3回にわたって、長尾一洋氏著の「デジタル人材がいない中小企業のためのDX入門」(KADOKAWA (2022/10/20) を参考に、中小企業とその経営者にとって、DXの持つ意味や進め方、経営者がやるべきことについてお伝えしたいと思います。
第1回目の今回は「DXの本質」として、中小企業にとってDXが持つ意味、DXによって目指す姿をお伝えします。
DXの定義
現在「DX」という言葉は流行語ともいえ、新聞、インターネットなどで目にしない日はありません。
しかし、その内容はというと、①ペーパレス化や経費精算などの業務システムの導入といった個別具体的なものから、②自動車産業にIT企業が参入するような業界構造を変えてしまうような動き、或いは③ビックデータとAIを使った社会実験のような、成果までの道のりが長い取り組みまで非常に幅広い取り組みに対して「DX」という言葉が使われていて正体不明なものになっています。
そのため、冒頭のDX推進における課題にあったような
- 「具体的な効果や成果が見えない」
- 「なにから初めて良いかわからない」
ということになってしまう人が多くなっています。
特に②③のようなものを見ると、「DX」は一部の大企業が進めるもので、中小企業には関係のないものと感じるのは無理もありません。
しかし、もともと経済産業省が「DX」という言葉を使った背景には、先進国の中でも特に低いと言われている日本の生産性を高めるため、特に大多数を占める中小企業の生産性を高めるために、みんなでもっと上手くデジタルを活用する必要がある。という意図がありました。
つまり、「DX」はもともと中小企業に向けた言葉だったのです。
ここで、改めて「DX」という言葉の定義を確認してみましょう。
経済産業省が2018年に発表したDX推進ガイドラインによる「DX」の定義は
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
となっています。
この文章は、次のように分化することができます。
Who(主語) : 企業は
When(背景) : ビジネス環境が激しく変化しているいま
Why(目的) : 競争上の優位性を確立するために
What(課題) : 製品やサービス、ビジネスモデルを変革
業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革
する必要がある。
How(手段) : データとデジタル技術を活用して
つまり、やらなければならない課題はあくまで「変革(トランスフォーメーション)」であって、
デジタルは単なる実現手段でしかない。ということになります。
競争優位を確立するための変革が実現できるのであれば、デジタルかどうかは関係ないのだけれど
今の時代、何をするにもデジタルが絡んできてしまうので、仕方なく「D」がくっついている。
これが「DX」という言葉のもつ意味、定義なのです。
DXの本質は限界費用0
次に「DX」がもたらすものを考えてみたいと思います。
DXの目的・効果として「コストダウン」が多く語られています。
ですが、単にコストダウンを目的と考えてしまうと、もともと生産規模が大きくない中小企業の場合、システム導入等によるコスト増は、削減されるコストに見合わないケースが多くなります。
そのため、「中小企業ではDXはやる意味がない」と考える経営者も多く存在します。
今回取り上げる書籍
「デジタル人材がいない中小企業のためのDX入門」
のなかで、著者の長尾一洋氏は、
「中小企業ではDXはやる意味がないという考えは非常に勿体ない。」
そして
「デジタル化の最大の価値はコストダウンではなく、限界費用が0ということ。」
と述べられています。
「限界費用」とは、生産量を増加させたときに追加でかかる費用のことです。
例えば、毎日、自動車を100台生産している工場があったとして、その工場が一日の生産台数を1台増やし101台にしたときに追加でかかる費用のことになります。
パンであれ車であれ、リアルな「もの」を1つ生産(販売)するたびに原材料費や工賃などが掛かります。
ところがデジタルの場合は、システムを導入してしまえば、100件処理しようが1000件処理しようが基本的にコストは変わりません。
このことを、限界費用=0と表現されています。
商品が追で売れ、顧客が増え、受注件数が増えても、限界費用はゼロ(=固定費は変わらず)
なの だ から、どんどん売上点数や顧客数を増やしていけばいい。
つまり、
- 「売り上げを増やしたいけれど人手が足りない」
- 「これ以上受注を増やすと仕事が回らなくなる」
という中小企業の経営者の多くが抱える悩みを解消し、
「ビジネスを拡大できる武器を得る」
事こそが、中小企業におけるDXの持つ意味、DXの本質ということなのです。
あなたが今、「売上を増やしたい」「事業を拡大したい」と考えているのなら、そして一方で「拡大策をこなすだけの人が足りない」と悩んでいるとしたら、あなたにって「DX」に取り組まなくていい理由は無いのではないでしょうか。