最近、テレビを見ていると
ペーパレス化や業務のデジタル化など
業務改革を支援するクラウドサービスの
コマーシャルを多く目にするようになりました。
プログラム開発などを行うことなく
すぐに使い始められるクラウドサービスは
業務のデジタル化や、業務改善進めたい企業にとって
とても強い武器になってくれます。
しかしクラウドサービスは、
簡単に使い始められるというその強みのために
かえって失敗を犯しやすいものでもあります。
導入したのは良いけれど、
「思っていたほど業務の効率化にはならなかった。」
「ツールが変わって使いづらくなった。」
「面倒なので使わなくなった」
といったように、狙った効果が十分に得られなかったり
最悪の場合、
せっかく導入したクラウドサービスが全く使われない。
といった事も起こります。
部下からシステム導入の要望が挙がってきたたとき
その投資を無駄にせず、狙った効果を実現するために
経営者はどんな点に気を付ければよいのか。
私が実際に目にした失敗事例を参考にお伝えします。
クラウド導入の失敗事例
介護施設の勤怠管理システム導入のパターン
複数の介護施設を運営する会社では
それまで紙とExcelで行っていた勤怠管理に
クラウドのシステムを利用することにしました。
選定した製品は、勤怠管理の老舗的製品。
グループ会社でも同じ製品を導入していたことも
その製品を選んだ理由の一つでした。
勤怠システムは大きな問題もなく稼働。
タイムカードも電子化し、出退勤時刻の管理は
楽にできるようになった・・・はずでしたが・・・
勤務管理業務の負荷はあまり減ってはいませんでした。
実は、今回導入したシステムは
給与計算、休暇管理のための仕組みとしては
十分な機能を備えていました。
しかし、介護の仕事では、
個人の出退勤時刻の管理とは別に
ある時間帯に特定の役割の人が何人いなければならない。
といった個人の資格とその時の立場・役割を考慮した
複雑なシフトの予定と実績の管理を行う必要がありました。
その業務負荷は、通常の勤怠管理と比べはるかに大きく
また、離職率の高い介護業界では、
この複雑なシフトのチェックができる要員を
維持・育成することが難しいという問題も
改善されないまま残ってしまいました。
結果的にこの会社では、
先ほどの勤怠システム導入から3年も経たないうちに
新しく介護業界専用の機能を持つ別の製品への
切り替えを行わざるをえなくなり、
短期間に2度のシステム投資と、
それにかかる手間をかけることになりました。
このケースは、
現状の業務の最も大きな問題が何なのか、
システム導入によって業務のどの部分を
どのように良くしたいのか、
期待される効果はどの程度なのか、
このような事を深く検討しないまま、
導入するシステムを決めてしまった所に問題があります。
システム化の対象業務を
「○○業務」という一般的な括りだけでとらえず、
実際に自分達が行っている業務の中で
何が一番大きな問題点、ボトルネックになっているのか
そして、その原因は何か、
どの業務手順を、どう変えたら
もっと効率的にミスなく仕事ができるのか
経営者は、提案されたクラウド導入の企画・計画のなかで
これらのことについて、論理的に飛躍や過不足のない、
無理のないストーリーとして整理されているのか
このことをしっかり確認することが大切です。
名刺管理システム導入のパターン
この企業では、様々な分野の取引先の情報を
別の事業での営業先として、或いは
新たなビジネスの連携候補の情報として活用するため、
名刺管理システムの導入を決めました。
そのシステム導入の企画書には、
製品ベンダーのホームページから抜き出してきたような、
一般的な問題点、目的、効果が記載されていました。
しかし、具体的に名刺情報を活用した業務の
手順については、全く検討がされないまま
名刺管理システムが稼働。
その後も、登録・活用のルールが整備されることなく
今では、数千円のソフトで事足りる
役員さんの名刺ファイルのようになっています。
この例は、
「システムを導入すれば良くなるんでしょ」
と思ってしまった典型的なパターンと言えます。
よくクラウドサービスの宣伝で、
「クラウド化で業務改善」
といったフレーズを目にしますが
クラウドを導入しただけでは
業務は改善できません。
現在の問題=今できていないことに対して
本当はこうやりたい。
という改善後の仕事のやり方を具体的に考え
それにそって仕事のやり方を変える。
その結果として、
前よりも良い状態、望んだ状態に変わる
業務を改善することができるのです。
クラウドやシステムは、
その「新しく考えた仕事のやり方」の一部を
自動処理、大量処理で助けてくれる道具であって、
目的を達成するために本当に重要なのは
仕事のやり方を変えることにあります。
IT・システム導入の経験がない人は、
「システムのことはよくわからない」という思いから
起動方法や操作手順といった細部に
気を取られてしまい、
システム導入後の仕事の全体像や
本当に達成しなければならないことについて
考える余裕がなくなってしまう事があります。
このような時、経営者は客観的な視点から
目的が達成できる理屈について
「システム導入することで」というフレーズを使わずに
説明できるかを確認してみて下さい。
説明に詰まる
原因と結果がかみ合っていない
そのような場合、クラウド導入によって
期待した効果は得られないかもしれません。
現状の問題とその根本的な原因を見直し、
クラウドの機能以外の部分で
変えなければならない仕事のやり方がないか
改めて確認してみて下さい。
クラウド導入失敗の原因はスタート地点にある
クラウドサービスの導入に限らず、
ITプロジェクトの失敗の要因の多くは
「上流工程」と呼ばれるプロジェクトの初期段階
にあると言われています。
「上流工程」では
会社の経営環境や経営課題を背景に
- なぜ・何のために現状を変える必要があるのか
- どのような状態になりたいのか
- なぜ今のままではなりたい姿になれないのか
- どうすればなりたい姿になれるのか
といった、「考え方」を整理・明文化し、
関係者の共通認識をつくることを行います。
特に、プログラム開発のないクラウド導入では
ここでしっかりと考えないまま
具体的なシステムの検討に入ってしまうと
たとえ予定通りに稼働することができたとしても
「期待した効果の出ないシステム」
「使えないシステム」
が出来上がってしまう事になります。
クラウド導入の経験のない担当者の場合、
「ITやシステムはわからない」という思いから
システムに関係ない部分、
純粋な業務手順の部分についても
考えられなくなる「思考停止」
とにかく凄いもの・便利なものとだけ考え
魔法のランプを手に入れたかのような
「過剰な期待」
になりがちです。
経営者は、
部下の提案するクラウド導入の企画・計画に対して
「IT・システム・クラウド」といった言葉や
システムベンダーの売り文句に惑わされることなく
- 現状の何を問題としているのか
- その問題の原因を取り除くために
仕事のやり方をどう変えようとしているのか - 新しい仕事のやり方と達成したいことに筋が通っているか
を確認し、論理の飛躍や、検討不足を指摘することで
クラウド導入で狙った成果を得られる計画に仕上げる
最後の砦となって頂ければと思います。